終焉の都市 その都市の名は、エクリス。 かつて犯した罪により、永遠に閉ざされた世界。死に往く者が留まる、終焉の都市。 暗い世界に縫い付けられた無数の影。温度のない息づかい。 それは、この『死の都市』に迷い込んだ、たくさんの意識のかけら。 肉体を失った彼らは、私が見守るこの地で、穏やかに消滅を待っていました。 語り:中惠光城 その中に佇むひとりの影。 彼は次の『私』となるべく、強くエクリスの意思を血に宿して生まれた少年でした。 エクリスは破壊と解放の力。 その力が無意識のうちに働いて、大切なものを壊してしまわないように。 彼は意識の半分をこの都市に封じられていたのです。 現実での彼は、自分が存在しているという実感が薄く、心は常に遠くにありました。 ぼんやりとした世界は、どんなことにも興味を持ちづらいものです。 言われるままに息をしているだけの自分を、誰よりも詰まらない人間だと思うことはありましたが、 それもまた彼にとってはどうでも良いことでした。 いずれ『エクリス』を継承すれば、彼の意思は消滅するのだと教えられてきたからです。 ですから、彼は『エクリス』を何よりも怖れ、激しく嫌悪し、 『私』の存在をも否定していました。 幻想と現実の狭間にある、忌まわしい『エクリス』。 大きな月が照らす死の都市で、運命からの解放を望んだ、彼の名はーー