矢切の渡し 矢切の渡し 「つれて逃げてよ……」 「ついておいでよ……」 夕ぐれの雨が降る 矢切の渡し 親のこころに そむいてまでも 恋に生きたい 二人です 「見すてないでね」 「捨てはしないよ」 北風が泣いて吹く 矢切の渡し 噂かなしい 柴又すてて 舟にまかせる さだめです」 「どこへ行くのよ」 「知らぬ土地だよ 揺れながら艪が咽ぶ 矢切の渡し 息を殺して 身を寄せながら 明日へ漕ぎだす 別れです